やっぱり今が一番

加代は夢を見ていた。
何もない海の上。加代が一人でたたずんでいた。
目が覚めて起きてみるともう既に朝であった。


「おっはよー!政さん!」
思い切り元気のある声が政の家の中に飛び込んできた。
「・・・おい。またかよ・・・。」
「「またかよ」とは何よ〜!最近仕事で忙しいっていうから身の回りの世話をしに来てやってるのに」
「余計なお世話なんだよ!ほっといてくれよ!」
5〜6日前から期限のある仕事を沢山頼まれ、他のことをしてる暇がない政に加代が目をつけ、
それからずっと世話を焼きに来ている。確かにご飯を作ってる暇さえもないから、ありがたいにはありがたいのだが・・・。
「だけど朝、昼、夜共にご飯作る暇もなさそうじゃないか」
「俺は頼んでないぞ!」
「あたしゃ何でも屋なんだよ。ま、いいからいいから。料金は安くしてやるからさ」
『・・・これだよ。こいつは好意で行動しないのか』
政は頭を抱えていた。
でも政はなんだか最近、なぜか孤独を感じていたためか加代のこのおせっかいが少しだけ嬉しい気もしていた。
加代は芸者にでもしたら人一倍評判になるだろうと思えるほどの美人であるが、なにぶん口を開けばうるさい。
性格も「繊細」という言葉は一切似合わないやつである。
そんな加代がここ2,3日、時々様子がおかしい。
鍛冶屋である政は火の中に入れて熱くなった鉄をトンカチやりながら、茶をすすり休憩を取ってる加代に聞いた。
「おい、どうしたんだよ。お前にしては珍しく最近ため息の回数増えたんじゃねぇのか?」
「へ?そう?気のせいじゃない?」
「なんかお前らしくないんだよな。何かあったんじゃないのか?」
「・・・別に何にもないわよ。あんたこそ何わけのわからないこと聞いてるのよ」

袋に入ってるせんべいをぱくつきながら加代は答えた。
『そういえば確かになぜこんな奴の心配をしてるのか・・・』政は自分でもよくわからなかった。
初めは『気味が悪い』と思ったが、日が経つにつれて寂しげな顔になりため息をつく回数が増えた加代がらしくなく、なんか心配になってきたのだ。
この日もやはりそんな加代の姿を政は何回も見た。
次の日、政は夢中になって仕事をしていた。ふと気がつくともう夕刻。
「そういえば加代、今日は来なかったな・・・」
いつもなら来なくなってせいせいするのだが、今回は加代らしくない表情を何回も見た後だったのでますます心配になってきてしまった。


加代が来なくなって3日後、壱が明日闇の会があることを告げに加代を探して政の家に来た。
「やっぱりここにもいない・・・か。どーこいっちまったんだ?せっかく金にありつけるっていうのによぉ」

「家にもけえってねぇのか?」
「おう、家の中には人っ子一人いないんだよ。よう、ほんとにあいつ、ここ2,3日姿みえねえけどどうしたんだ?」
「・・・。八丁堀や竜のとこには行ったのか?」
「いや、まだだよ」
「・・・ちょっと待ってくれねえか?二人のとこに行くのは」
「・・・・・・。なんか考えがあるみてえだな。じゃ、ま、まかせるわ」
壱が立ち去ってから政はつぶやいた。
「あいつ・・・まさか裏の仕事から足抜きたいとか言い出すんじゃないだろうな・・・」
政の感であった。


あたりが暗くなり政は今日の仕事が一段落し、屋台のそば屋でそばの夕飯を食べた後なんとなくブラブラ歩いてみた。
なぜか加代に会える気がしていたのだ。
少しした時になんと本当に歩いてた河原の草むらに、寂しげに座ってた加代の姿をみつけた。
「加代!」
加代が振り向く。政は加代の隣に座り込んだ。
「あぁ・・・政」
「どうしたんだよ。いきなり姿を消したりして・・・」
苦笑いをしながら加代が答える。
「うん・・・前にも何回かあったんだよね。こんなこと。・・・何でだろう。なんか最近くさくさしちゃって何もかも嫌になっちまってさぁ。
周りは変わってるのにあたしは何も変わってないとか、結局あたしは一人だとか、なぜか悪いことばっかりが頭の中を回ってる・・・。
いつの間にか、海の上にあたし一人しかいない夢を見るようになってた・・・。
『一人になりたい、違う自分になりたい』なんだかそう思ってちょっとここから離れてたんだよ。・・・そのまま戻るのやめようか、そうも思ってたんだ」

「じゃあお前、やっぱり裏の仕事・・・」
「・・・抜けたいと思ってなかった・・・って言ったら嘘になるよ・・・。でもそんなの無理なのはわかってる。
だからなんとなく戻ってはみたんだけど・・・・・・」
加代が寂しげな顔をしながらため息をつく。
「・・・俺はよくわかんねえけど、お前、本当にお前は一人だと思うのか?変わってねえかな?
・・・っていうかお前は確かに騒々しいけど、周りの人間を明るくする力があると思うんだよ。
正直言って俺も最近孤独を感じてたんだ。そこにお前がいつもの調子で世話を焼きに来て、なんかそんなもんふっとんだ。
『あぁ、俺には仲間がいたな』と感じたんだよ。所詮は裏稼業の仲間かもしれないがやっぱり“仲間”は“仲間”だ。
俺はそれをいつもの調子のお前に教えてもらったよ。
確かに過去も一人だったし、いつかは一人になるだろう。でも今は違う。今がよければいいじゃないか。お前も今が一番いいと思ってるんだろ?
それに人間、どうやったって一人じゃ生きていけないぞ」
「・・・・・・今・・・か・・・。そうだね・・・。前、今が一番なんてあたし、言ってたっけ。
確かに人は一人じゃ生きていけないわ・・・。それは皆、自分が一番よく知ってることだよね。・・・そんなことすっかり忘れてたよ。」
加代に笑顔が戻ってきた。
「そうね・・・そうだね。今が一番だね。ありがと。なんかふっ切れたよ」
「よおし!明日からまたがっぽり稼ぐぞぉ!」
「・・・おい・・・、結局結論はそれかよ」
政は呆れたが、繊細なところがないと思ってた加代も繊細なところがあったんだと彼女を見直したのだった。


「おっはよー!政さん!」
次の日の朝、いつもの調子で元気な加代の声が政の家に飛び込んできた。
「結局また来たのかよ・・・」
「あたり前だよ〜!まだ忙しいんだろ?料金は安くしとくから安心しとくれよ」
『やっぱりこれだよ・・・』頭を抱えながらもいつもの調子に戻った加代を見てほっとした政であった。

                              完

ノベルズ第2段です!うわ〜!やっぱりはずかしい〜〜!!!
なんか今回は“ピン!”と来て作った話ではないのでな〜んか話がうまくまとまってないような気が・・・(-_-;
今回は政&加代。リクエストがあったってこともありますが、はじめからもし次を書くとすれば政は主役にしようと思ってたんですよね。
で、なんとなく政&加代主役という感じになりました。
今回、加代には悩んで頂きました(笑)いや、前にも書きましたが私って好きなキャラが悩むのって好きなようです。
ホラ、最初の加代なら悩んでた話があったけど、後の加代って最初の頃に比べて悩んでなかった気がしません?(笑)
それで「激闘編」頃の設定で加代のこういう話を作ってみました。
でもね、書きながら思ったのですがいくら突然悩み始めたからってあんなにあっさりふっ切れるだろうか・・・って思うんですよねf^_^;
でもこれ以外に思いつかなくてああいう結果になりました。
もう一つ疑問。政って絶対加代のことを心配することはないんじゃなかろうか・・・と思うんですよね〜(^_^;)
だからこんな話作っていいんだろうか・・・って考えてしまいます。でももう作ってしまったんだからいいんです(笑)

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