姉妹なのかもしれない絆

「こんにちわ」
三味線屋である勇次の店に、一人の女が入ってきた。
「・・・なんだ。加代じゃないか。なんだよ、いきなり丁寧に挨拶なんかして入ってきて・・・。」
「え?なんですか?・・・あたし、ここには初めて来たんですけど・・・」

『あれ?人違いか・・・。・・・それにしても加代に瓜二つだな・・・。』
勇次はビックリし、そう思いながら
「あぁ、すまねぇな。俺の知ってるやつにあまりにそっくりだったもんだから・・・。」
勇次はその加代そっくりな人に三味線の修理を頼まれたのだった。


「八丁堀!」
何でも屋ののぼりを持った加代は誰もこちらを向いてないことを確認して、道で主水を見つけて呼んでいた。
「なんだお前か。なんの用だ」
「何の用ってほどでもないんだけどさぁ、あたし今稼ぎが少なくて参ってるのよ。すぐそこのそば屋でそばでもおごってよ〜」
「何言ってんだよ。聞いたぞ。ある武家屋敷の主人に気に入られて、よく表の仕事で出入りしてるらしいじゃねぇか。
それなら金もたんまり稼げてるだろ?そばくらい自分で頼んで食えよ。」
「・・・なんだ、知ってたの。・・・・・・フン!いいわよ!ケチ!」

加代は主水をジト目で見て、怒りながらそう言ってそこから立ち去っていった。
すぐそこの角をまがったすぐ後に主水はなんとさっき見た加代の顔をみつけた。
『え!?あの馬鹿はさっき向こうへ行ったよな・・・。ってことは別人か。・・・あんな顔が二つもこの世にあったのか』
簡単に納得していた主水だった。


げんべえ長屋に帰ってきた加代は自分の家に、ブチブチ文句を言いながら入っていった。
するとその後すぐに戸の前に人が来て立った。
「こんにちわ・・・。」
「誰?」
戸の前に立っていた人物が戸をあけた。
「え!?」
加代は驚いた。

「・・・っへぇ〜!まるで鏡を見てるみたいだよ。」
加代は思わずそう言っていた。すると加代に瓜二つの女が
「お姉ちゃん!」
と、加代をそう呼んでいた。
「は!?お姉ちゃん!?ち・・・違うよ!人違いだよ!あたしゃあんたの姉ちゃんなんかじゃないよ!
第一あたしゃ子供の頃から親もなくて一人だったんだから!」
「いいえ!あなたはあたしのお姉ちゃんよ!」
『秀さんの妹騒動の次はあたしかい・・・!?』
加代は戸惑いながらも、とにかく自分と同じ顔をしてる人を家にあげた。


「じゃあ佐代さんのお姉さんの名前は、字はわからないけど私と同じ“かよ”っていうの?」
佐代はうなずく。聞くと佐代は加代より二つ下。佐代のお姉さんは加代と同い年らしい。
母親は既に亡くなっていて、家族は現在父親と二人。
佐代が四つの頃大きな火事があり、お姉さんである“かよ”だけ生き別れになったようだ。
その姉を生き別れになった時からずっと探していたという。
しかしこれ以外のことは、聞いても口をつむんで話してくれない。
佐代が四つの頃ということは、加代が六つの頃だ。さすがの加代もそんな頃のことはほとんど覚えていない。
だから本当は、自信を持って「妹なんかいない」とは言えなかった。
「う〜ん・・・名前と歳だけじゃ私がお姉さんとは限らないわよ・・・。それに世の中同じ顔は三つあるっていうしねぇ・・・」
「お姉ちゃん・・・お願い!あたしをここにおいて!一緒に暮らして!」
「えぇっ!?・・・じょ・・・冗談じゃないよ!自分の生活で精一杯なんだから・・・!だめ!だめ!」
加代は佐代を立たせ、追い出すように外に出した。
「そんなこと言わないで!お姉ちゃん!お願い!」
「だから姉さんじゃないって言ってるだろ!?」
加代は戸を力強くしめた。


『あれからどのくらい経ったんだろう・・・』
加代が自分をお姉さんだと言ってきた佐代を外に追い出してから何時か経っており、既に外は暗くなっていた。
追い出したものの、元々世話好きな加代は気にならないわけがなかった。
しかも自分と瓜二つな顔の人だからなおさらだ。
自分の晩ご飯を作っていた加代はそっと戸を開けて外を覗いてみた。
外には加代の家の戸の隣でしゃがんでいた佐代の姿があった。
「佐代さん・・・。そんなとこでしゃがんでないで入っておいでよ。行くとこないんだろ?」
「・・・・・・。それじゃあ・・・」
加代は頷いた。
「でも宿泊代は自分で稼いであたしに払ってもらうからね」
笑顔で言っていた加代であった。
寝る時になって佐代は既に加代の布団の隣に、大家から借りてきた布団を敷いて寝ていた。今日は相当疲れていたらしい。
佐代は加代と違っておしとやかな性格だが、加代としては顔が同じなだけあって自分を見ているようにも思えた。
『・・・もしかして本当にあたし達は姉妹なのかもしれないわね』
本気でそう考えていた。


「おい、彼女そのままお前のとこで暮らさせるのか?面倒なことになるんじゃないだろうな。」
数日後、加代は秀の家に来ていた。佐代は外でお民の遊びに付き合っていた。
「だいたい彼女はお前の裏稼業のこと知らないんだろ?ばれでもしたら・・・」
「わかってるわよ。」
真剣な顔で佐代とお民の方を見て返事をする加代。
「・・・ところで本当にお前の妹なのか?」
加代は仕事人の情報屋だ。そこはさすが専門分野。加代は言った。
「・・・・・・フッ。あたしがそこに抜かりがあると思う?自分のことだしね。ちゃんと調べたわよ。完全にはわからなかったけど・・・。」
「おい・・・。完全にはわからなかった・・・って・・・」
「大丈夫。ちゃんとなんとかするから・・・」

加代はキリッとした笑顔で答えるのだった。
「佐代、さっ帰ろう」
話を終えて立ち上がった加代は佐代の手を無理やり引っ張っていた。
「え!?お姉ちゃん!?」「どうしたの!?急に!」
加代は何を言われても無言のまま佐代の手を引っ張って自分の家に向かっていった。
自分の家についたとたん加代は佐代の荷物を彼女に押し付けるように渡し、
「さっ、出てっておくれ。あんたはあたしの妹でもなんでもないんだから!」
と、そう言った。
「え!?そんな!あなたはあたしのお姉ちゃんよ!それにあの時ここにいていいって・・・」
「ああ言ったよ!でもやっぱり困るんだよ。あたしだってこの歳だ。これがいるんだよ。
あんたがいたんじゃいつまでたっても家に呼べないじゃないか!」
親指を立てて加代は言った。
「さぁっ!出てった!出てった!!」
「いやよ!!お姉ちゃんと一緒にいたい!!」
佐代は加代の腕にしがみついていた。
「甘えるんじゃないよ!!!」
加代の平手打ちが佐代の左頬に飛んだ。
その衝動で加代の家の戸の外に佐代が倒れこむ。
加代は思い切り戸を閉めた。
佐代はしばらく悲しそうな顔をしてその場にそのままいたがやがて仕方なく立ち上がって歩き出す。
またしばらくして歩きながら荷物の中に手紙があることに気付いた。
それはなんと加代からの手紙だった。

【佐代さん、残念ですが私達が姉妹でないのは本当です。
あなたの本当のお姉さんの名前の字は佳代。私がしらべたところ上方にいるそうです。
でもそれ以上のことはけっきょくわかりませんでした。本当にごめんね。
私のしらべではあなたのお姉さんにかんして上方にいるというとこまでしかわかりませんでしたが、
妹であるあなたならきっと見つけ出せると思います。がんばって。
聞けばあなたはお武家屋敷の娘だとか。
私みたいなちょうにんといるより、やはり屋敷に帰った方がしあわせになれると思います。
でも私もあなたと過ごした日々、忘れません。
あなたが来た日、本当に姉妹だったら・・・とも、本当に姉妹かもしれない・・・とも思いました。
数日でも妹とよべる人がいてうれしかったよ。たのしかった。本当にありがとう。
なお、お父さまにはちゃんと口ぞえしておいたから安心して帰っていいよ。 加代】

佐代は加代が姉でなく寂しかったが、加代の気持ちややさしさが嬉しかった。


佐代が加代の家から去って行ったすぐ後に秀が来た。
「妹じゃなかったのか・・・」
「あぁ、違う。字が全くちがうからね。あの娘(こ)、実はあたしが最近出入りしてる武家屋敷の娘なんだよ。
だからあそこの旦那様が佐代に瓜二つのあたしを気に入ったみたい。」
「へぇ・・・。そうだったのか」
「うん、調べていくうちにあの武家屋敷の娘と知ってあそこの旦那様に問い詰めてみたのよ。
そしたら姉の名前の字、妹はなぜ家出したのかを話してくれてね・・・。
あそこの旦那様、根はいい人だけど結構押し付けがましいとこもあってね。そんなのが佐代は嫌だったみたいだね。
極めつけは佐代に、勝手に見合い話を持ってきたらしくて佐代はいやだといってたんだけど、
勝手に進めてたんだって。ま、そこはお武家様だから仕方ないんだけど・・・。
でもあの娘はその、ぎすぎすしたのが嫌だったみたい。」
加代の顔が少し寂しそうになった。
「あたしもこの数日迷ったよ。このままでもいいんじゃないか・・・ってね。
あたしだってあんな妹がいたらどんなにいいか。でもあたしはこんな稼業してるだろ。
それにあの娘には幸せになってほしいのよ・・・。」
「・・・そんなふうに思ってる彼女をあんなふうに追い出してよかったのか?」
「・・・秀さぁん。なんとかした方がいいといったのはあんただよ。
まぁ、ああでもしなきゃあの娘は出ていかなかっただろうよ。」
加代は苦笑いしながらそう言った。
「大丈夫よ。佐代ならきっとあたしの気持ち、わかってくれるわよ・・・。」
加代は自信を持って言えたのだった。

                        完

うひゃ〜!はずかしい!とりあえず初めてのノベルズです。
設定は「仕事人IV」の秀の妹とかいってる人が出てきた話、21話「主水仲人を頼まれる」の後くらいかな〜・・・というところです。
前から鮎川さんの二役を見てみたかったと思ってたんですが、確かないんですよね。昔、見つからなかった覚えがあります。
まぁ、出てるもの全部を見たわけではないので本当にないかどうかはわかりませんが、
とりあえず私は見たことがありません。そんな気持ちから出来た話です。
一応佐代は20代での鮎川さんがゲスト出演でやってきたキャラのイメージです。
でもそれをイメージ出来ずに書いてました(汗)
この話はいろんな話を元にしてつなげて作ったんですが、
そういえば加代が“男を家に呼びたくても呼べない”っていうのは、
書いた後に『どっかにあったシーンだな・・・。そういえばSPの「春日野局」にそんなシーンがあったなぁ』と気付いたのでした(笑)

何でも屋創作ノベルズへ戻る

inserted by FC2 system