「新必殺仕置人」38話 「迷信無用」解説

都の商売人さんが解説してくれた文章をここで紹介しようと思います。ありがとうございました。

 とある神社で願掛けをしている美女を見かけ「またお会いしましたね」と声を掛ける鉄。どうやら、この女性は何度もここに来ているらしい。鉄に見向きもせず無言で立ち去る女性の後姿を見て、鉄が呟く「いい女だ〜!」実は、この美女は大手の材木問屋・檜屋の一人娘・おもん(鮎川いずみ)で「呪われている」「夫を食い殺す」と言う迷信がある丙午の年の生まれだった。先代の旦那である父を亡くし、最初の夫は井戸に落ちて溺死。つい先頃婿に迎えた二番目の夫も、突如崩れてきた材木の下敷きになって死亡!真夜中に、井戸の釣瓶が不気味に軋る物音をしばしば耳にする事もあるおもんは、恐怖の余り自分が呪われた身なんだ…と思い込んで、次第にノイローゼ状態となる。
 ◎今回のヒロイン−火の女と呼ばれる「丙午」の生まれで、周囲から散々な目に合わされる美女・おもんを演じているのは、必殺ファンにはお馴染みの鮎川いずみ嬢。殺されはしなかったものの、物語の中で相当酷い目に合わされるおもんを、鮎川嬢は好演していた。ただ、ラストが駆け足になってしまい、おもんが立ち直った様が画面上で描かれなかったのが残念だ!(「良縁無用」と同じ様になるのを避けたか?)
 夢遊病者のように、街中を彷徨い歩くおもんを見掛けた鉄は「やあ、またお会いしましたね」と強引に居酒屋に誘う。酒を酌み交わし、すっかり酔ってしまったおもんを早速自分の家へと連れ込む鉄!すばやく布団を敷き、抱き寄せてコトに及ぼうとする鉄は、我に返って抵抗するおもんに対し「行きずりの男と女が一回切りで袂を分かつ。俺はそう言う事が出来る男なんだ」と巧みに口説く。だが、「あたいに触れるとあんたは死ぬよ!あたいは火の女なのよ」と自嘲するように言い、狂ったように笑い続ける女を奇異な目で見つめる鉄は「まずい女引っかけちゃったな」と思わず呟く。「信じないのね?」無表情になったおもんは、激しく泣き崩れるのであった。
 ◎今回の鉄は、ひたすらおもんをモノにする事に精を出し、やけに気障な口調で接しているかと思うと、直ぐ様布団を引き始めるなど、真骨頂を発揮していると言えよう!だが、概して今回の鉄は淡々とした印象を受ける。
 おもんに手を焼いた鉄は、巳代松の家へ行くや「とびきり上等の女、世話してやろうか?」と持ちかけるが、既に正八から話を聞いて、鉄の家を覗いていた巳代松に「気のふれた女なんか相手に出来るかよ!お前ェは見境なく手を出すから、天罰が降りたのよ」と言い返され、大笑いされる始末だ!一方、家に帰ろうとしない理由を正八が聞こうとしても、おもんの返事はさっぱり要領を得ず、その内突然鉄の家を飛び出してしまう!
 一方、闇の中で一組の男女が乳繰り合っていた。檜屋の先代主人の後妻・おかつと番頭の久蔵だ!実は、亡くなった先代主人の遺言で、檜屋の全財産がおもんに残された事に不満を抱いたおかつが、番頭の久蔵・手代の定吉と組んで、おもんを亡き者にしようと、すべての出来事を企んでいたのだった!先代主人の突然の死・おもんの最初の婿の井戸での溺死・二番目の婿の材木の下敷きになっての圧死も、すべて彼ら三人の謀り事だった。先代の旦那の頃から忠実に仕えていた老僕の嘉吉は、「もう、あっしにゃあ、お嬢様をお守りする力はありません」と呟き、お嬢様が不幸な目に合いなさるのも、総てあいつらの仕業だ!…と、ある決意を固める!
 そして次の日。「檜屋に〜揺らめく妖し火〜おかつかな〜〜!」寅の会での激しい競り合いの末、鉄が20両でこの仕事を落札するのだった。一方、アジトを死神が密かに見張っている事に気付いた主水は「お前ェがここの主人か?」と、いかにも八丁堀然とした口調で正八に問い質す。「どうしたの?」と、主水の態度に疑問を抱いた正八に、死神が見てるから俺の分だけ取っとけ!…と言って立ち去る主水。そこへ帰って来た鉄。主水の後を死神が付けているのを見るや、頭から羽織を被って何食わぬ顔。主水とすれ違った後、死神はいきなり鉄を物陰へ引っ張り込む!
「町方が嗅ぎ回ってるようだ。気を付けるように」
 鉄と主水との間柄を知らない死神の言葉に、「よし分かった。念の為に、ちょっとつけてみてくれ」と、わざとらしく言う鉄。可哀相な主水を尻目に、アジトへ戻った鉄は、巳代松や正八たちと大笑いに興じるのだった!
 鉄から檜屋の調査を命じられた正八は、昨夜からおかみさんが帰ってきていない事‥‥更に、瓦版売りが「丙午生まれの女は男を食い殺す!」とスキャンダラスに煽り立てている光景に遭遇する!そして、偶然瓦版屋の口上を耳にしたおもんは激しいショックを受け、遂には街中の人々が自分を指差して噂しているような幻覚にまでとらわれ始める。戻って来た正八の報告を逆立ちしながら聞く鉄。瓦版屋の口上を信じて、丙午の女は怖い…と呟く正八に対し、そんなのは迷信だ!くだらねえ事書きやがって!…と言い捨てる鉄!自分が関わり合った謎の美女が、檜屋のおもんに違いない…と察した鉄は、アジビラをばら撒いた瓦版屋を締め上げ、殴る蹴る!更に「ありもしねえデタラメを言いやがって‥‥誰からネタ仕入れた?」と迫る。鉄の余りの迫力に、檜屋のおかみが自分からネタを売り込みに来たと告白する瓦版屋を、思いっ切り張り倒して去って行く鉄であった。一方、嘉吉が真相を知ってるんじゃないか?…と疑心暗鬼に捕らわれたおかつたちは、彼を消してしまおうと画策する。そして、戻って来た鉄の真っ暗な家の中にはおもんがいた!
「抱いて!あなたは言ったじゃないの?行きずりの男と女が一度っ切りで袂を分かつ、俺はそれが出来る男だって!‥‥それとも、あたしが怖い?」
 激しく迫るおもんに瓦版を見せる鉄。「お前ェ、こんな馬鹿な事信じてんのか?」と言った鉄に、「丙午生まれの女」と言う自らの運命を呪うおもん。だが、鉄は「人の言いなりばっかになってりゃ、酷い目に合うのは当たり前だ!虐められたら、蹴りっ飛ばしてやりゃあいいんだよ!」と、力強くきっぱりと言う。鉄の言葉が心に染みたおもんは、一夜を彼と共に過ごすのだった‥‥。
 ◎決して優しく思いやりのある言葉ではないのだが、鉄のおもんに対する感情は、何とも言えないものがある!後の場面で、悪党たちの悪謀みにより自殺寸前の心理にまで追いやられたおもんが立ち直れたのも、おそらくは鉄の言葉が心に残っていたからだろう。
 翌朝、主水が檜屋で首吊り死体の検分をしている。実は、久蔵たちが二人がかりで嘉吉を絞殺し、首吊りに偽装したのだ!それを瞬時に見て取った主水は、檜屋を見張っていた正八に首吊りは偽装だと告げ、裏の仕事の取り分を取っとけ!…と言って立ち去る。そこへ、鉄と共に帰って来たおもんは、嘉吉の死を知らされるや、真っ青になって店の中へと駆け込む!爺やの遺体にすがって泣き崩れるおもんに対し、爺やの死んだのも知らずに、今までどこへ行ってたんだ!…と罵るおかつ!更に「どこまで罪深い人なんだ!(今まで起こった事件も)皆、あんたのせいだよ!」と責め立てる!彼女と示し合わせた久蔵や定吉も、こんな丙午生まれの女と一緒に仕事は出来ない!…と言い立て、大勢の奉公人を煽り立てて「出て行け!」とおもんを追い詰めて行く!
 誰一人として味方してくれる者もなく、居たたまれなくなったおもんは、再び店を飛び出してしまう!ここまで行けば、後はおもんが自分で死んでくれるだろう…と、悪事の成功を笑うおかつたち。だが、その悪謀みを正八が陰でしっかりと聞いていた。正八から報告を受けた鉄が怒りを露わにする!「ふざけやがって!何が丙午の女だ!」悲しみと絶望に打ちひしがれたおもんが、一人夜の町をさ迷い歩いている時、彼女の恨みを晴らすべく仕置人たちが出陣する!
 ◎大店乗っ取りの為に、様々な陰謀を張り巡らせたおかつたちだが‥‥彼らの言動からすると、先代の大旦那・先の婿・二度目の婿の死‥‥と、総て彼らの仕業ではあるものの、画面上では直接的な描写はない。それにも関わらず、彼らの言動が非道に感じられるのは、町の人々や店の者まで言葉巧みに煽り立てる事により、おもんを心理的に追い詰めている事だろう。正に「刃物ばかりが人を殺すもんじゃない」のである!
 ……それから数日後。鉄は、正八からおもんがすっかり元気でいい女になって、店を切り回している事を知らされる。あのまま彼女を鉄っあんの女にしてたら、今頃は大店の主人でふんぞり返って、一生不自由のない身分でいられたのに‥‥尻軽女ばかり相手にしてるから、全然先が見えないんだ。女を見極めるには、まだまだ遊びが足りない!…と偉そうに、正八は鉄に向かって説教する。
「生意気な事言いやがって‥‥もう一回、コネ付けて来ようっと!」と駆け出す鉄であった!
 ◎今回の話は、おもんは状況に流されるばかりで、自ら立ち直りを見せる場面がなく、悪党たちの陰謀もセコく中途半端な感がある。おもんのその後も正八の説明だけで、些か物足りない。鉄のおもんに寄せる淡々とした想いや、心理的におもんを追い詰めて行くおかつたちの非道さ、久しぶりに存在感を示す死神…等々、あちこちに見所もあるだけに残念だ.

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